House N – Hitoyoshi Law Office
人吉の事務所併用住宅 2026
家族の暮らしと、法律事務所としての仕事。
その双方を守り、静かにつなぐために計画した事務所併用住宅。
水害経験と敷地条件からはじまった計画
2020年の熊本豪雨で水害を経験したご夫婦から、
「もしもの時にも家族と仕事を守れる住まいにしたい」という相談を受けた。
敷地は青井阿蘇神社の裏手に位置し、前面道路は復興計画に伴って将来的な拡幅が予定されている都市計画道路に面している。
また、水害への備えとして、住居の主要な生活空間であるLDKを2階に配置することが、計画の初期条件として求められた。
こうした災害経験と敷地条件を受け、建物全体の配置、動線、上下階の構成に至るまで、
非常時への備えと日常の心地よさをともに成立させる建築を目指した。
法律事務所としての独立性と安心感
法律事務所を併設する住宅として重視したのは、相談者のプライバシーを守りながら、
弁護士である施主やスタッフ、ご家族の安全性にも配慮することだった。
閉じながらも閉じすぎず、安心感と開かれ方のバランスを丁寧に整えることが、この計画の大きなテーマとなっている。
配置計画では、来客用駐車場と住居用駐車場、それぞれの車路、事務所、住居、庭の関係を慎重に整理した。
前面道路側に事務所棟と来客用駐車場を配置し、その奥に庭を挟み、テラス下部にあたるピロティを介して住居棟と住居用駐車場を設けている。
これにより、来訪者の動線と家族の生活動線が交錯することなく、心理的にも物理的にも明確な領域を保ちながら、落ち着いた居住環境を確保した。
また、前面道路から駐車場や建物内部が直接見通せないよう、板塀によって視線をやわらかく制御し、相談者が安心して訪れることのできるアプローチ空間を計画している。
相談室は独立性を確保しつつ、吹抜けを介して2階の執務空間と緩やかにつながる構成とした。
プライバシーと安全性、そして事務所としての一体感を同時に成立させるための平面計画である。
仕事と暮らしを緩やかにつなぐ住まい
事務所と住居は、それぞれ独立した環境であることが望まれたため、L型に配置した二つのボリュームを、2階のテラスを介して緩やかにつなぐ構成とした。
二つの片流れ屋根を連続させることで、用途の異なる建築でありながらも、ひとつのまとまりとして感じられる外観をつくっている。
事務所棟は1階に執務室を設け、2階にも執務スペースを配置した。
さらに、サーバーなどの設備を2階に集約することで、水害時のリスク低減を図るとともに、非常時にも事務所と住居を安全に行き来できる構成としている。
一方、日常においては、2階の執務スペースと住居側のLDKがテラスを介して向かい合い、互いの気配や光を感じられる関係をつくっている。
仕事に集中しながらも孤立せず、家族の存在を身近に感じられること。
子どもたちが両親の働く姿を日常の風景として自然に受け取れることも、この住まいの大切なテーマのひとつである。
また、事務所と住居をつなぐ象徴的なテラスは、青井阿蘇神社の大木を望む位置に配し、その先に居間空間を配置した。
災害への備えという条件を内包しながらも、日々の暮らしに静けさと安心感が宿り、家族と仕事の新しい関係性が自然に生まれる建築を目指した。
建築概要
所在地:熊本県人吉市
構造規模:木造2階建
敷地面積:724.92㎡
建築面積:138.49㎡
延床面積:225.86㎡
空調:壁掛けエアコン
換気:住宅1種換気・事務所3種換気
給湯:エコキュート
UA値:0.50W/㎡K
長期優良住宅・省令準耐火仕様
施工:2026.02
設計監理:阿部悠子設計アトリエ / 阿部悠子
構造設計:建築食堂 / 白橋祐二
外構設計:鳥山早穂
施工:エバーフィールド / 井村元基・北野真凛・高野圭明
造園:魁春園 / 坂本広明
製作キッチン:田中工藝 / 田中智也
撮影:山本勇夢
























