SWEEP HUT
2025年
南阿蘇村のキャンプ場に建てられた「SWEEP HUT」は、受付兼ショップ棟として設計された小規模木造建築である。施主は熊本地震を経験した板金職人であり、キャンプ場の経営者でもある。災害時に備えた建築のあり方への関心から、本計画は「災害時に自ら建てられる建築」や「中長期滞在に耐える仮設のプロトタイプ」として始動した。熊本県南小国町とのつながりを背景に、小国杉に加え、大曲材や端材など流通しにくい素材に着目し、地域林業が抱える課題への建築的応答を試みた。
建築的な特徴としては、湾曲材をCNC加工で精緻に組み上げた屋根架構、加圧処理を施した丸太による高床基礎、再利用材による断熱構法が挙げられる。湾曲した梁は、1枚の板から上下で2本の部材を交差する形で切り出し、曲率のばらつきを許容しつつ屋根面を構成した。交差梁は水平剛性を高め、構造用合板を不要とするシンプルな架構を実現している。
基礎には300φ程度の加圧処理丸太を使用し、コンクリートに埋め込んだうえでラグスクリューボルトによりスラブと一体化。経年で表面が腐食しても十分な耐力を維持し、剛性の高い高床基礎としている。これにより浸水対策、通風・排水性の確保、設備配管の明示化を図り、コンクリート使用量の削減によって環境負荷の低減にも寄与している。
断熱は屋根・床に新聞紙を再利用したセルロースファイバーを吹き付け、天井にはアルミ蒸着シートを併用して遮熱性と光の反射・拡散効果を高めた。さらに壁にはオガクズを袋詰めした断熱材を充填し、透明ポリカーボネート板で覆うことで廃材利用と視認性、メンテナンス性を両立させた。
ファサードには小国杉のラタン材を用い、スノコ状に仕上げることで通気性を高め、直射日光による熱負荷を軽減している。
本プロジェクトのもうひとつの特徴は、設計・加工・施工が初期段階から密に連携する協働体制にある。CNCの技術的理解を共有しながら、3Dモデリングや現地での即時対応によって、柔軟なものづくりを実践した。
この経験を通じて、特定のメンバーに固定されず、プロジェクトに応じて地域のプレイヤーとその都度編成する流動的な体制が、多様な知見と創造性を建築に取り込む可能性を示した。
災害への応答と地域資源の再評価という二重の課題に対して、開かれた協働と技術の活用によって挑んだ、実験的かつ実践的なプロジェクトである。
建築概要
所在地:熊本県阿蘇郡南阿蘇村
構造:木造平屋
敷地面積:549.82㎡
延床面積:33.12㎡
建築面積:33.12㎡
竣工:2025年5月
SWEEP HUTプロジェクトチーム:
南阿蘇STAY HAPPY / 渡辺賢司
阿部悠子設計アトリエ/ 阿部悠子
建築食堂/ 白橋祐二
アートホーム工房/ 上野拓美
デジタル木工家/ 三舛正順
TAKAHASHI Architecture / 高橋康太
撮影:上野拓美