本山の自邸

HOUSE/ATELIER 2022

設計者の自邸。 約40坪の敷地に祖母、父母、子ども2人、2世帯5人の暮らす住宅であり、設計者の仕事場。

敷地は昔ながらの住宅密集地に位置し、西側には長年放置された空き家、南側には老人ホーム、東側は老人ホームの機械設備が並び、北側の前面道路からみると、日差しの乏しい陰鬱な環境であった。将来を予測しづらく、周囲に開きにくい環境と一旦距離をとるために、敷地いっぱいに閉じた家型のボリュームをつくり、その中に細長い中庭を設ける計画とした。

幅一間の小さな中庭は、住宅とアトリエのアプローチを兼用している。 壁で囲まれ、プライバシーを確保した1階の中庭と繋がるように、内外を一体に感じられる玄関ラウンジを設けた。洗面・トイレの水廻りをコアとして、回遊できる動線の中に、庭を眺められるガラス張りの浴室、家事のできる階段下カウンター、祖母が寛げるラウンジなど、小さな居場所を埋め込みながら、限られた空間で2世帯が気づまりにならない工夫をしている。

一方2階レベルでは、中庭の外壁に設けた開口部によって、周辺環境と繋がる。フレーミングされた周辺環境をインテリアのように室内に取り込み、広がりのある明るい空間をつくっている。また中庭を取り巻くようにLDK、寝室、こども室を設けた。各室とその開口廻りの設えによって、中庭との繋がり方をコントロールするとともに、各室から中庭を介して家族の気配も伝わる。中庭の外壁は、延焼ラインを切る防火壁として機能しているため、中庭に面する諸室の開口部は防火設備の制約なく、大開口の高断熱既製サッシの採用を可能にしている。

壁に囲まれた中庭と、中庭を介して開かれた開口部によって、周辺環境が住宅内部へ重層的に繋がっていく。住宅密集地においても、光や緑を生活の中に取り込み、雑多な周辺環境さえ美しく感じられる、のびやかな暮らしを叶えている。

また住まいにおける心地よさを求め、意匠性と快適性を両立させるための性能についても、プランニングと並行して検討している。空調・換気計画とともに、断熱材と通気層、内部仕上げに至るまで一貫性のある製品を選定し、汎用性があり、コストバランスのよい必要十分な手法で心地よい暮らしを実現している。


建築概要
所在地:熊本市中央区
用途地域:近隣商業地域・準防火地域
構造:木造 2階建
敷地面積:131.76㎡
建築面積:69.56㎡
延床面積:131.66㎡
空調:壁掛けエアコン(1台/階)
給湯:エコキュート+太陽光発電
換気:1種換気 空気循環 全熱交換機
UA値:0.56W/㎡K
長期優良住宅
竣工:2022. 7


設計監理:阿部悠子設計アトリエ / 阿部悠子
施工管理:エバーフィールド / 木村陽平・井村元基
構造設計:建築食堂 / 白橋祐二
照明計画 : IN THE LIGHT / 野口雄一郎
造作キッチン:田中工藝 / 田中智也
植栽計画 : 古閑舎 / 古閑英稔
写真:YASHIRO PHOTO OFFICE