HOUSE T

本山町の住宅 2023

熊本市中央区、26坪の小さな敷地に建つ家族3人のための住宅。
住宅密集地かつ狭小地でもあるが、東側接道の向かいには広い駐車場があり、視界が開けている。限られた空間の中に機能的で落ち着いた住まいを設えながら、東側の通りや外部環境との接点を作ることを考えた。

1階は、建物の間口いっぱいにピロティを設け、駐車スペースと玄関へのアプローチを兼ねた。両開きの玄関扉を開けると、広い土間のエントランスと繋がる。玄関であると同時にバイクの駐車スペースとして機能している。

2階には雨に濡れないテラスを設けた。リビングから1段上がったテラスは、外部と繋がりながらも壁や軒に守られることで、特別な一部屋のように感じられる。機能的には延焼ラインをクリアするための防火壁としても役立っている。

建蔽率を最大限に活用し、敷地いっぱいに建っているが、テラスやピロティによって穿たれた空間によって、通りと繋がり外部に開いていく。同時にそれらの空間は暮らしを守る緩衝帯として、また暮らしを豊かにする半戸外空間として機能している。

複数の機能を織り交ぜた外部との接点は、通りへも柔らかい表情を見せている。


建築概要
所在地:熊本市中央区
用途地域:第2種住居地域・準防火地域
構造:木造 2階建
敷地面積:85.55㎡
建築面積:51.32㎡
延床面積:102.64㎡
空調:壁掛けエアコン(1台/階)
給湯:エコキュート
換気:3種換気
UA値:0.60W/㎡K
長期優良住宅・省令準耐火仕様
竣工:2023. 10


設計監理:阿部悠子設計アトリエ / 阿部悠子
     林田直樹建築デザイン事務所 / 林田直樹
施工管理:エバーフィールド
構造設計:建築食堂 / 白橋祐二
造作キッチン:田中工藝 / 田中智也
撮影:yona design lab

バイクと暮らす、26坪の家

Tさん

Photo: Isamu Yamamoto Txt: Asuka Nakajo

お引渡し後、Tさんがどのように暮らしているかをお伝えするため、ライターによるインタビュー記事を掲載いたします。実際の暮らしのイメージが、より具体的に伝われば幸いです。

母校を眺める26坪の敷地に、マイホームの可能性を感じたTさん一家。 趣味のバイクを愛でる時間を生み出す、斬新なアイデアが生きた間取りや、 ディティールから視覚的な心地よさまでデザインされたゆとりを感じる空間が、 家族それぞれの気持ちをほぐし、流れる時間を穏やかに彩ります。

ー阿部さんとの出会いを聞かせてください。

新居を探し始めて、この土地の購入を迷っていた時期に、友人から「建築家の阿部さんが自宅の内覧会をしているから行ってみない?」と誘ってもらったのがきっかけです。そのとき会場にいらっしゃった阿部さんに失礼を承知であれこれ相談させてもらったことで、一気に視界が開けた気がします。あの時、直接お話ができていなかったら、今の暮らしには出会えていなかったと思うので、本当にラッキーでした。

ー見学会で家をみた時の印象を教えてください。

「これまで見てきた家と全然違う!こんな家に住みたい!」って大興奮でした。夜の見学会だったので、照明使いやインテリアのスタイリングも際立っていましたが、そうしたディティールだけではなく構造から違うことを体感できました。外観は閉じた印象なのに、中はパァッと明るい。ラワン材の使い方や素材、壁紙の使い方、1階のあらわし天井など、何もかもが新鮮で素敵でした。「これは、建築家さんじゃないとできないな」っていう空間でした。

ー“建築家”に依頼することに、ハードルは感じませんでしたか。

家づくりは、どこに依頼するにしても大きな買い物になるので、前向きにいいものを選びたいという気持ちでした。
実は、阿部さんに出会う前に、この土地の図面を持って、数社のハウスメーカーにプランの提案をもらっていましたが、なかなかピンと来るものに出会えていなかったんです。そんな時にいただいた阿部さんからの提案は、とてもワクワクするものだったので「ぜひお願いしたい!」と依頼しました。私たちにとっては、“ハードル”を感じるというより、可能性を感じる出会いでしたね。

ー設計段階では、どのようなリクエストをされましたか?

26坪の敷地に車2台分の駐車場と、バイク用のガレージ。大きな窓のあるリビングと、使い勝手のいいキッチン。2階建てならトイレは2つ必須で、可能であればロフトも欲しい。なおかつ、スタイリッシュな見た目もキープしたい、という割と無茶なリクエストをしていました。

ー阿部さんの印象を聞かせてください。

黒いワンピースがトレードマークの気さくな方、でしょうか(笑)。
家づくりにおいてデザインを重視する夫と、実用性を重視する私の意見をうまくまとめながらも、決してクライアントの言いなりにならない、しなやかなたくましさがある方です。家づくりはややもすると実用面に傾きがちなものですが、建築の肝をしっかり抑えた上で「ここはこうしたほうがいいです」と明確な意見をくれます。視点の異なる、私と夫の双方が納得いくまでレクチャーをしてくださる、真摯な姿勢も心強かったです。

ー設計打ち合わせ中の印象的なエピソードを教えてください。

設計の段階から密にイメージを共有してくださっていたのでほぼイメージ通りだったのですが、設計の中盤で階段の位置とキッチンの位置を丸っと反転させたい!と思い立ったんです。かなり思い切った変更だったのですが、耳を傾け、諦めずに対応してくださった阿部さんにはとても感謝しています。

ー家族それぞれのお気に入りスポットを教えてください。

息子と夫は、お風呂上がりにそのまま玄関で愛車のバイクを眺めるのが日課です(笑)。息子は、階段が自分のワークスペース(?)にちょうどいい高さだと気づいたみたいで、階段の定位置でいつも遊んでいます。わたしはどこもかしこもお気に入りなんですが、日々「いいな」と感じているのはリビングの西側につけたハイサイドの窓。うまく西陽を遮りつつ、夕方の陽が傾く時間帯には部屋の中をふんわりと柔らかな光で満たしてくれます。

ー実際に暮らしてみて、心地よく感じているところを教えてください。

計算された陽の光の入り方、使いやすい動線、サイズ感、どこを切り取ってもこの形がベスト、と思える居心地の良さがあります。例えば、大きなリビングの窓。窓枠の印象を最小限に抑えることで外の景色に自然と視線がいくように作られていて、空間に広がりを感じます。眠れないほど探してくださった取手だったり、巾木(はばき)のデザインだったり、素材や色の合わせ方など、空間に対する細やかな配慮の積み重ねが美しい空間を作るんだなと実感しています。

ー最後にひと言お願いします!

この家は、阿部さんとのご縁、大工さんとのご縁、たくさんのご縁に恵まれた存在です。意思疎通がしっかりできていたので不安や心配はありませんでしたが、土地の購入から設計、予算調整まで、すべてチームワークで乗り切った感じで、完成したときの満足感はひとしおでした。関わってくださった方がまるで自分の家のように最後の最後まで丁寧に仕上げてくださったことに感謝しながら、この家とともに自分たちらしい日々を送っていけたらしあわせですね。